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共催シンポジウム「淀川水系治水における大戸川ダムと琵琶湖の役割の検証」レポート【里山学研究センター】

2023.06.07

 里山学研究センターは、2023年5月13日(土)に前滋賀県知事の嘉田由紀子参議院議員がコーディネートされている「大戸川ダムと琵琶湖、淀川の治水を考える会」主催のシンポジウム「淀川水系治水における大戸川ダムと琵琶湖の役割の検証」を共催しました。シンポジウムは、ジャーナリストや複数の議員も含め40名近くが参加し、活発な議論が行われました。

【日時】2023年5月13日(土)13時30分~16時45分

【場所】対面/オンライン 龍谷大学瀬田キャンパス1号館619会議室/Zoom

【報告1】「知事として直面した大戸川ダム問題のこれまでとこれから」

      嘉田由紀子氏(参議院議員 前滋賀県知事)

【報告2】「上下流対立とは何か-琵琶湖の水位変動と洗堰全閉問題」

      中川晃成氏(龍谷大学先端理工学部・講師

里山学研究センター・副センター長)

【報告3】「中川報告へのコメント」

      秋山道雄氏(滋賀県立大学・名誉教授 里山学研究センター・客員研究員)

【質疑応答】司会 田中滋氏(龍谷大学・名誉教授 里山学研究センター・研究フェロー)

【報告4】「淀川水系河川整備計画に疑義あり」

      今本博健氏(京都大学・名誉教授)

【報告5】「大戸川ダム見学会報告」

      中川晃成氏、嘉田由紀子氏、今本博健氏

【全体討論】

 【報告1】の嘉田氏は、「知事として直面した大戸川ダム問題のこれまでとこれから」を発表しました。ここでは、嘉田氏の研究者(環境社会学者)および知事(政治家)としての活動、淀川水系流域委員会との関わり、大戸川ダム建設中止の経緯(政治的攻防も含む)と知事退任後の現状、淀川水系河川整備計画を始め今後の河川政策の展望などが示されました。特に、嘉田氏は、大戸川ダム建設の必要性の根拠となるデータが時の行政の意向に合わせて動かされてきたことを示し、当該建設に疑問を投げかけました。

嘉田由紀子 参議院議員 前滋賀県知事

 【報告2】の中川氏は、「上下流対立とは何か-琵琶湖の水位変動と洗堰全閉問題」を発表しました。ここでは、これまでの淀川水系や琵琶湖に関わる通説を実際の水理データから読み解くと、互いに整合しないところがある旨を示してこの点を確認するとともに、真の姿を水理データの分析を通して明らかにし、従来の通説的見解とは異なる独自の理論を呈示されました。とりわけ、中川氏は、水理データを踏まえて、琵琶湖の水理の認識として琵琶湖は「溢れる湖」であること、本来の洗堰全閉問題は、下流の状況によって長期に洗堰が流量制限を受けることで生じ、今もその可能性があること、上下流の対立は流量の大小を考えると存在し得ないことなどを説きました。

中川晃成 講師(龍谷大学) 副センター長(里山学研究センター)

 【報告3】の秋山氏は、淀川水系の水問題を紐解く中川研究の意義についてコメントしました。ここでは、中川氏が淀川水系のデータを体系的に収集・整理され(データによる説得力)、また、河川の水理を徹底的にベースにして考究、展開していることが示されました。特に、その中でも瀬田川の洗堰が持っている意義が一般に理解されているそれと中川氏の見解との間に違いがみられ、通説に対する挑戦をし、琵琶湖が有する性質、水という物質が琵琶湖という器に入ってきたときに受け止める器の大きさとそこから出ていく河川のポテンシャルの関係に着目しているなどを評価しました。

秋山道雄 名誉教授(滋賀県立大学) 客員研究員(里山学研究センター)

 【質疑応答】では、報告者間で例えば、▼(問いかけ)政治現象ではなく物理現象に基づいて考えていかなければならないのではないか、▼(コメント)自然界にとって不条理なことでも政治の力で曲げることができるという現実があるなどといったやり取りが行われました。

 【報告4】の今本氏は、「淀川水系河川整備計画に疑義あり」を発表しました。ここでは、国が説明する淀川水系の治水についての基本的な考え方に対する疑義(例えば、国土交通省が立てた計画高水位を超えれば破堤氾濫するという仮説と当該仮説とは辻褄が合わない検証パターンがみられることなど)を科学的データの分析結果を通して説明されました。そして、今後の治水のあり方として、定量治水を非定量治水への転換を訴えられました。

今本博健 名誉教授(京都大学)

 【報告5】では、参加者を代表して中川氏および嘉田氏が2023年5月8日(月)に視察した大戸川ダム建設予定地の状況を発表しました。中川氏は、(下流の天ケ瀬ダムとの関係も含めて)ダムの治水の有効性を明確に説明できていない点を水理データの分析を踏まえて解き明かし、また、嘉田氏はこれまでに国から受けた説明を紹介した上で大戸川ダム建設がどの程度、科学的データに基づいているのかという点に疑念があること(大戸川ダムの不条理)を述べました。

嘉田由紀子氏、中川晃成氏

 【全体討論】では、例えば、▼(問いかけ)住民や現地の人々の生活、或いは生物も含めた自然界からといった下からの論理と産業界や行政といった上からの論理とが様々な形で衝突していることなどを踏まえて、治水問題に対する生物多様性の問題は国土交通省や国会などでどの程度、意識されているのか、或いは日本の行政の仕組みとして、生物多様性の問題を開発に反映させるような仕組みが現時点で制度的に機能しているのか、そもそもそのような制度があるのか、▼(コメント)Eco-DRR(生態系を活かした防災・減災)やグリーン・インフラによる取り組みなどが注目されているが、治水と生物多様性との繋がりは依然として希薄である(この点に関わる法律も未制定)、▼(コメント)海外の事例にあるように、河川政策における主権在民の実現として河川や湖に法的人格を与えるという議論を進めていく段階に来ているのではないか(自然の権利に関する議論も同様)、▼(コメント)日本国憲法に自然権を組み込むことが重要ではないかなどといったことが示され、参加者と報告者の間で、また、報告者間でも白熱した討論が行われました。

【全体討論】の様子