Research Centre for Satoyama Studies (Socio-Ecological Studies)

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京都弁護士会 公害・環境委員会 第75期選択型実務修習(自然保護部会) 開催レポート

2022.09.29


<京都弁護士会 公害・環境委員会 第75期選択型実務修習(自然保護部会)開催>

日時:2022年9月16日(金)10:00~17:00
場所:龍谷大学瀬田学舎9号館2階大会議室・「龍谷の森」

第1レクチャー:人類と自然環境の持続可能性
        村澤 真保呂氏(里山学研究センター・センター長/社会学部・教授)
第2レクチャー:里山の歴史と現状
        宮浦 富保氏(里山学研究センター・研究員/先端理工学部・教授)
第3レクチャー:森林の過剰利用と過少利用
        林 珠乃氏(里山学研究センター・副センター長/
                        先端理工学部・実験講師)
第4レクチャー:フットパスを知っていますか?
        ―自然景観へのパブリックアクセスの意義と手法―
         鈴木 龍也氏(里山学研究センター・研究員/法学部・教授)
第5レクチャー:「龍谷の森」に関する事前説明および実地レクチャー
         太田 真人氏(里山学研究センター・博士研究員)
意見交換会

 里山学研究センターは、2022年9月16日(金)に京都弁護士会公害・環境保全委員会の依頼を受け、第75期選択的実務修習(自然保護部会)の一環として、同期司法修習生に対し、環境社会問題や里山問題に関する研修を目的に実務修習(レクチャー(実地レクチャーも含む)および意見交換会)を実施しました。本修習は、里山学研究センター関係者6名、司法修習生16名、他大学の学部生1名、弁護士2名の計25名が参加しました。

大会議室でのレクチャー風景

 村澤氏(第1レクチャー担当)は、まず、これまでの持続可能性に関わる国際的な取り組みを概説すると同時に、持続可能性の危機についても論じ、その中でも、気候変動対策の名目で進められているエネルギー政策(太陽光・風力・原子力の各発電)が、開発の観点から生物多様性の保護と矛盾する事例が増加し、生物多様性の喪失に繋がっていることなどを指摘して、気候変動対策と生物多様性対策の矛盾を示しました。また、自然環境と社会環境双方の持続可能性の現状(エネルギーと食料資源の過剰消費、地方・農村の破綻(過疎化)など)を呈示するとともに、これを理解するために、エコロジカル・フットプリントのデータを紹介しました。さらに、人間と自然との関係として、双方の中間地帯を緩和、喪失させてきたことが、人間の健康にも影響を与えていることを述べました。
 
 宮浦氏(第2レクチャー担当)は、まず、里山における重要な樹木として、アカマツ、コナラおよびクヌギの各樹木の特徴や役割を紹介しました。続けて、「里山-農家-田畑」それぞれの関係性を踏まえて、里山景観における物質とエネルギーの流れや、里山における生物多様性を示しました。そして、近年の里山の変化として、①化学肥料、新しいエネルギー(石油、プロパンガス、電気)の利用による里山の価値の低下(これが里山の放置、林床照度の低下に繋がっていること)、②アカマツの衰退、③ナラ枯れの拡大、④タケの大繁殖、⑤鳥獣害問題を挙げて、里山の危機的な現状を説明しました。
 
 林氏(第3レクチャー担当)は、森林の役割として、水源函養、土砂保全、地球環境保全、生物多様性保全、物質生産などを示すとともに、森林の過剰利用にともなう森林減少は、世界的な環境問題であり、その要因として、林業、商業伐採、山火事、農地転用などを挙げました。また、牧畜、山火事、薪炭生産、木材生産などによる森林劣化(森林機能の低下)も著しいと述べつつ、世界における森林の過少利用の実態も指摘しました。さらに、日本の里山の比較対象として、マラウイ湖国立公園における森林と住民との間の生活環境を詳説し、その上で、森林利用を抑止するための技術・ルールと森林利用を促進するための技術・ルールを同時に模索し、森林減少も森林劣化も招かない、持続可能な丁度よい森林利用が望ましいことを示しました。

 鈴木氏(第4レクチャー担当)は、自然景観へのパブリック・アクセスを拡大するために求められる制度や考え方を、イギリスにおける近年の展開を参考に、とりわけ、①自然景観アクセスの里山問題にとっての意義、②「日本のフットパス」と「イギリスのフットパス」の違い、③カントリーサイド(田園地帯、田舎)へのパブリック・アクセスを支える制度、④パブリック・アクセスを拡大するための公的支援制度、という観点から報告しました。また、フットパスの意義として、地域活性化や地域コミュニティをひらくということだけでなく、農山村や山林などに市民がアクセスできる可能性を拡げることや、市民によるアクセスはフットパス運動(フットパスの多面的な価値を打ち出すこと)にとっても重要な意味を持つことを説きました。
 
 太田氏(第5レクチャー担当)は、実地レクチャーをするにあたり、「龍谷の森」の歴史や研究エリアと里山保全エリアのゾーニング、里山保全計画の内容などの事前説明を行いました。実地レクチャーは、2つの班(太田班・林班)に分かれ、それぞれで「龍谷の森」における里山環境の解説、木々の観察や植生・生態系の把握などを行いました。また、「龍谷の森」の敷地内にある森林観測タワーに登頂し、「龍谷の森」を一望しました。
 
 意見交換会では、村澤氏の司会進行のもとで参加者各人から感想や意見(質問)が出されました。それは、▼「龍谷の森」を通して自然の形成過程を知ることができた、▼気候変動対策と生物多様性対策の矛盾、対立が興味深かった、▼イギリスのフットパスについて、野生動物の管理をどのように行うのか、▼森林の過剰利用の問題もその過少利用の問題も解決することで得られるメリットが必要ではないか、などといったものでした。

観測タワーから見た龍谷の森
龍谷の森での実地研修