共催シンポジウム「大戸川ダムの土砂堆積問題を考える-最上小国川の穴あきダムから学ぶ-」レポート
2023.12.26
里山学研究センターは、2023年11月19日(日)に、シンポジウム「大戸川ダムの土砂堆積問題を考える -最上小国川の穴あきダムから学ぶ-」(大戸川ダムと琵琶湖・淀川水系の流域治水を考える会主催)を共催しました。当日は、里山学研究センター関係者のみならず多方面の関心を集め、一般の方々などを含め30名近くが参加して、熱のこもった報告とともに、総括討論では活発な議論が交わされました。
【日時】2023年11月19日(日)9時00分~13時00分
【場所】龍谷大学瀬田キャンパス1号館619会議室(オンライン同時開催)
【はじめに】「なぜ今、大戸川堆砂問題なのか?小国ダムから学ぶ問題提起」嘉田由紀子氏(参議院議員・前滋賀県知事)
【報告1】「小国川ダム建設後、河川環境に何が起きたのか?地質学者からの発見」川辺孝幸氏(山形大学名誉教授)
【報告2】「穴あき小国川ダムに潜ってみました!(貴重映像本邦初公開)」岸野底氏(アユ研究者)
【報告3】「流水型ダムに関する覚書」大熊孝氏(新潟大学名誉教授)
【報告4】「国交省近畿地整・滋賀県・京都府・大阪府による大戸川ダム計画復活の論拠を突く」今本博健氏(京都大学名誉教授)
【総括討論】(全体進行)中川晃成氏(龍谷大学里山学研究センター副センター長)
まず、嘉田由紀子氏より、イントロダクションとして、本シンポジウムのテーマに関する問題提起と、各報告者の報告内容がそれとどのようにかかわっているのかの解説がありました。流水型ダムは環境にやさしいと謳われることがあることに対し、特に、土砂堆積の観点から具体的な疑問が判明しつつあります。流水型ダムとして既設の最上小国川ダム(山形県)における堆砂の現状報告を地質学の専門家の川辺先生より、同ダムのダム湖の映像報告をあゆ研究者の岸野先生より、流水型ダムにおける特徴摘示とその環境影響を河川研究者である大熊先生より、大戸川ダム復活の道筋と論拠がどのようなものとして述べられてきたのかの批判的検討を淀川水系流域委員会委員長でもあった今本先生より、それぞれ報告をいただくことが述べられました。そして、本シンポジウムの多様な参加者により、上述の堆砂問題も含め、小国川ダムや大戸川ダムなどの流水型ダムにおける環境への影響について、幅広く意見交換を行っていきたい旨を述べられました。
川辺孝幸氏は、「小国川ダム建設後、河川環境に何が起きたのか?地質学者からの発見」のテーマで報告されました。ここでは、流水型ダムにおいてダム湖底に広がる細粒堆積物が河川環境に及ぼす問題が説かれました。小国川ダムでは、上流域がそもそも土砂崩落に弱い地質条件にあり、その建設後には、出水時にダム湖に細粒堆積物を堆積させ、それが残留することで濁流の長期化が起こることを示されました。流水型ダムであったとしても、流量のピークカットを目的に湛水させるため、必然的にダム湖への土砂沈殿が生じ、河床が本来有する更新機能を妨げ、これが河川環境へ悪影響をもたらすことになります。湛水期におけるダム湖の膨張は土砂沈殿の2次元的広がりを生み、洪水減退期にはそれがそのまま広域に残留する点を指摘されました。
岸野底氏は、「穴あき小国川ダムに潜ってみました!」のテーマで報告されました。小国川ダムに実際に潜ってダム湖からダムゲートを抜けて撮影した映像が示されました。また、小国川ダムの上流域と下流域の水環境の状況について、魚類(ヤマメ、ウグイ、アブラハヤ、カジカ)の生息データを踏まえての報告がありました。
大熊孝氏は、「流水型ダムに関する覚書」のテーマで報告されました。流水型ダムは一般に土砂が溜まらないことから環境にやさしいと言われているが、現実は土砂が堆積する仕組みになっていること、および、流水型ダムは建設実績が乏しいため、実際のところどの程度の量がどのように堆砂するのかが必ずしも明瞭でないことが説かれました。また、流水型ダムの諸元の比較により、いくつかの流水型ダムの計画堆砂量に疑問のある点が指摘されました。小国川ダムと比較すると、大戸川ダムの流域面積は約4倍、総貯水容量は約10倍であるにもかかわらず、計画堆砂量が小国川ダムと同程度となっていることを述べられました。
今本博健氏は、「国交省近畿地整・滋賀県・京都府・大阪府による大戸川ダム計画復活の論拠を突く」のテーマで報告されました。大戸川ダム事業の経緯においてキーポイントとなった事柄について解説されるとともに、国が説明する淀川水系の治水についての基本的な考え方や河川整備計画における問題点の指摘がありました。また、大戸川ダムの治水有効性について河川管理者が計画時に提示したデータをもとに、その説明のどの点にどういう問題があるのかを具体的に説かれました。また、2013年台風18号豪雨時に緊急放流を行った天ヶ瀬ダムの運用についても、実際の水文データをもとに言及されました。
総括討論では、ダム建設においてともすれば失われている政策決定過程における健全性を、行政と政治の双方において、どのようにすれば確保できるのか、あるいは確保すべきかという点についてまず議論がありました。この際、研究者が導き出す科学的にまっとうなデータをどのように活かしていけばよいのかという点にも論及がありました。流水型ダムが環境に及ぼす影響が少ないとされているが、そもそも堆砂容量を見込んでいることに堆砂を前提としていることが認められ、影響がないとするのは正しい言明でないとの指摘もありました。小国川ダムや大戸川ダムについてのほか、球磨川支流の川辺川に計画中の川辺川ダム(熊本県)についても意見交換を行いました。多様な分野の研究者に加え、行政担当経験者やNGOメンバーなども交え、堆砂問題に限らずダム行政にかかわる白熱した議論となりました。なお、前日11月18日(金)には、当日の報告者を中心に、大戸川最上流域にある多羅尾地区において、1952(昭和28)年8月多羅尾水害で当時被災された方々へのヒアリングも実施しています。大戸川という河川の流域特性やそこにおける水害の実態と、そこに設置されるダムという治水装置が噛み合っているのかについて、大きな示唆がありました。