Need Help?

News

ニュース

2022.12.27

公開研究会レポート「マラウイと日本における里山の取り組み」【里山学研究センター】

共催:JST-JICA SATREPS マラウイ湖国立公園における統合自然資源管理に基づく持続可能な地域開発モデル構築

 里山学研究センターは、2022年12月21日(水)に「JST-JICA SATREPS マラウイ湖国立公園における統合自然資源管理に基づく持続可能な地域開発モデル構築」との共催で公開研究会を開催しました。

【タイトル】「マラウイと日本における里山の取り組み」
【日時】2022年12月21日(水) 16:00~17:30(日本時間)、9:00~10:30(中央アフリカ時間)
【使用言語】英語(パワーポイントは和文併記)
【開催場所】オンライン(Zoom)
【報告1】「生活のための里山:日本人による観察」
      林 珠乃氏(里山学研究センター・副センター長/先端理工学部・実験講師)
【報告2】「生活の質のための里山:マラウイ人による観察」
      マーリン チクニ氏(マラウイ大学チャンセラー校・講師)
【意見交換会】

 
 社会生態学的生産システムの一つである里山は、人々が生活や生業のために自然を利用することによって多様な生物に生息地を提供し、生物多様性の保全に重要な役割を果たしている場です。そのため、里山のコンセプトは、自然資源の利用と自然の保全が両立しうることを強調しています。とはいえ、自然の保全と活用を調和させることは難しく、それぞれの地域が独自の課題を抱えているとされています。
 そこで、本公開研究会では、日本とマラウイ(中央アフリカ)双方の研究者が社会・経済・自然環境が異なる両国の里山の特徴と実践を報告し、それぞれの里山に特有の課題と共通の課題を明らかにし、その解決策を探りました。

 本公開研究会では、第1報告として、林氏がマラウイでの里山活動を、第2報告として、チクニ氏が日本での里山活動をそれぞれ発表し、グローバルな視点を提供しました。

第1報告の林氏は、マラウイの里山を紹介するにあたって、森林減少と森林劣化の原因となる過剰利用(原生自然からの収奪、持続可能な収量を超えた自然の収奪、生物や生息地の良好な状態を著しく脅かす利用)と過少利用(社会生態系において、生物の多様性とそれに関連する文化的多様性を維持するために必要であるにも関わらず、人間が関与しないこと)、全世界における2001年から2015年の間の(日本及びマラウイは2001年から2019年の間の)森林被覆減少の主な駆動要因(商業伐採・農地への転換・林業・山火事・都市化)などを説明し、その上で、マラウイ湖国立公園(1980年設立/1984年世界遺産(自然遺産)の登録)(以下、当該国立公園)とそこで生活する(飛び地の村の)人々の実態(ネットワークの形)を紹介しました。すなわち、当該国立公園では、マラウイ農村の人々の生活は自然資源に依存していること、当該国立公園に資源利用プログラムを設け、村人たちは世界遺産である当該国立公園の自然資源を利用していること(例えば、薪の採取・使用、魚燻製業)などを図表や写真を用いて概説されました。また、当該国立公園における薪の採取に関する現行の規則(明文化されていることとして、当該国立公園内での生木の伐採は不許可、明文化されていないこととして、薪を採取・運搬するための鉈といった道具の利用の禁止など)ということも示されました。そして、結論として、多様な森林資源の利用方法と知識があり、村人や当該国立公園が誇れる文化になっていること、村の森林資源利用のネットワークは、社会的、経済的、生態学的条件の変化のもとで、時間的、空間的にダイナミックに変化していることなどを指摘されました。


林珠乃副センター長による報告の様子1


林珠乃副センター長による報告の様子2

   第2報告のチクニ氏は、日本の中で特徴的な里山活動をしている、個人やグループないし団体として、「マツタケ十字軍(マツタケ復活させ隊)」、「みたき園」、「森のようちえん まるたんぼ」、「ヒップホップのラッパーから自伐型林家への転身:大谷さん」、「河辺いきものの森」、「薪遊庭」、「愛のまちエコ倶楽部 里守隊」、「「龍谷の森」里山保全の会」を取り上げ、日本の里山の現状を報告しました。説明された主な内容は、以下の通りです。すなわち、「マツタケ十字軍」では、マツタケの育成の生態学的知見を活かし、歴史を甦らせることなどを、「みたき園」では、伝統と農村文化を守りつつ、地元の資源を活用と地元住民の労働力を活かすことを、「森のようちえん まるたんぼ」では、人間の自然な探究心を利用して3歳から5歳児が自然に触れながら教育を受けられること(子どもの自立心、自発性などの向上)、「ヒップホップラッパーから自伐型林家への転身:大谷さん」では、林業家として若者のロールモデルになっていること、「河辺いきものの森」では、(市民に対する)環境教育やエコツーリズムに関連した活動を行い、森の資源を活用した様々な体験ができることを、「薪遊庭」では、薪や薪ストーブの販売をする中でコミュニケーションに課題を抱えた若者のインターンシップを受け入れ、社会復帰活動に関わっていることを、「愛のまちエコ倶楽部 里守隊」では、地域の森の手入れを通して里山保全に力を入れていることを、「「龍谷の森」里山保全の会」では、健康・運動・仲間作りなど様々な目的を持った人々が週末に集まり、環境保全活動を行っていることをそれぞれ示されました。そして、結論として、まず、日本とマラウイの共通点として、人間の幸福のための自然価値があること、自然資源の管理に多様な立場の人々が参画していること、相違点として、世代間の利益(未来への構築)を挙げました。次に、森林が過剰利用や過少利用されている地域に対する自然の利用と保全とのバランスを取るための提案として、長期間のモニタリングを実施し、その結果を資源利用者に伝えること、自然の価値を地域及び世界的な標準に合わせて再評価し、地域の人々に普及させることなどを述べられました。その上で、技術的発展の結果、日本の人々の生活は森林資源に依存していないこと、森林資源が十分に活用されていない原因に地形や輸入品の安さがあること、自然の利用と保全とのバランスを取るために、自然との新しい付き合い方を考えることなどを説かれました。


マーリン チクニ氏による報告の様子1


マーリン チクニ氏による報告の様子2

 林氏とチクニ氏双方の報告終了後、参加者との間で意見交換を行いました。本公開研究会には海外の研究者も多数、参加され、報告者との間で終始、和やかな雰囲気のもと、和気あいあいとした意見交換がなされました。